書籍『MOTの達人』読了

森健一(日本語ワープロ開発者)と鶴島克明(CDの開発者)と伊丹敬之(MOT専攻の客員教授)の対談集。
すげー面白かった。全てのエンジニアは必読だと思う。

MOTとタイトルにあるが、理論的な話では全くなく、技術開発を成功させる為の秘訣が森氏と鶴島氏の経験談によって語られている。
本の帯にもあるけど、どちらかと言えば「知恵」の本。

以下、気になったところとか適当に要約して引用。

森「かな変換方式ではなく、ペンタッチ式のほうがいいと事業部長は言っていた。自分はダメだと分かっていたのだけど、試作を作って分からせるしかないから2種類作ることになった。ただ、どちらも作らせてくれた事業部長は偉いと思う」
鶴島「CD開発は外のサプライヤーの力を借りなければ絶対ムリだった。初期製品はLSI富士通、レーザーはシャープ、レンズはオリンパス
鶴島「CDの開発は同じオーディオ部署からすごい反対を受けた。彼らはアナログをやっていたから」 伊丹「アナログの研究が過去を活かす肯定技術だとすれば、CDは否定技術」 鶴島「ただ肯定技術、否定技術を別々の組織でやってはいけない。組織同士の争いになるし、否定技術をやっていたほうは移行できずにそのままダメになってしまうから」
鶴島「CDの初期量産試作品で100台ぐらいはすべて壊してテストした。最初に世に出た商品で不良が出たら、その概念自体が否定される」
森「プロジェクトリーダーに必要なのは修羅場の予測と準備」
森「技術開発は8合目のあたりが一番つらい。このあたりが一番ケンカになりやすい。ここでステップバックとかするとまずプロジェクトは失敗する。脇道を探すという手もあるが、直登するのが一番成功率が高い」
森「厳格な管理をし始めたら、一番早く成果が出てくるものを選ぶだけだし、そういったものは独自性も低い」 森「研究にはロードマップなど不要。いつできるか分からないことをやっているわけで、そうでないものはあまりやる意味がない」
森「プロジェクトの中止が一番悩ましい決断。下手をするとその人をつぶすことになる。中止の決断で、一番かわいそうなのは、その人自身に壁を越える力がなく、ぐるぐる回っているとき」 鶴島「止めろといっても他の事業部からリソースを引っ張ってきて続ける奴もいる。が、そういうので成功したのは聞いたことがない」


ってかさ、

鶴島「エンジニアというのは、本当に自分のアイデアをボツにされるとか、エンジニアリングの議論になると、取っ組み合いをやってしまう人種なんですよ。灰皿なんかをバーンと投げたりします。もう大乱闘ですよ、会議の場で。すごいですよ。」

すげーな昔のエンジニア。
今の人もこれぐらいやるのかなぁ。